なぐこはいねが~わりこはいねが~
男鹿のなまはげ
男鹿といったら「男鹿のなまはげ」。大晦日に秋田県の男鹿市と三種町、潟上市の一部の各地域で行われる伝統的な民俗行事であり、「男鹿(おが)のナマハゲ」として、国の重要無形民俗文化財に指定されている。名前を知ってはいるが、なまはげがどのようなものかは、詳しくわからない。そういった人が多いのではないか。メディアで得られる情報だけでは、雪が降るころ地域の集落になまはげがやってきて、各家々を訪問。そして「なぐこはいねがぁ~」と荒々しく声をあげながら、子どもを脅かす。怖い……。そんなイメージである。 「男鹿のなまはげ」がどんなものか紐解くために、男鹿にある「なまはげ館」を訪ねてみた。
圧巻の迫力。なまはげの面はなぜこんなに種類があるの?
なまはげ館の中では、なまはげの伝説・由来などを知ることができるのだが、1番の見どころは今にも動き出しそうな110体のなまはげと150枚のなまはげの面がある大型のホール(上写真)だ。ホールの真ん中に立てば360度なまはげに囲まれることになる。なんだか怖い。しかし一体一体見ていくとすべての面が特徴的で手に持っているものにも違いがある。なぜこんなにも違いがあり種類があるのだろう?そんな我々の疑問に当日案内してくれた太田さんが答えてくれた。
【太田さん】
なまはげの面は集落(地域)ごとに違います。昔から面の材料は木彫りや木の皮・ざるなど、その地域に暮らす人々の身近にあるものを使用してました。
また、その顔にも決まったルールは特にありません。その作り手も時代の移り変わりで、もちろん変わっていきます。集落の面の特徴やカタチを少しづつ変えながら承継されていく場合もありますし、そうでない場合もあります。だからこそ集落(地域)の数以上に面が存在し、その結果こんなにも種類があるんです。
ちなみに、面の色も主立って赤と青が存在し、この色が違うのにも意味があるんです。
実は2体一組で「夫婦なまはげ」と言われております。赤が「爺さんなまはげ」、青が「婆さんなまはげ」。また、色がないものは形で分けていて、「角張ったお面が爺さんなまはげ」、「丸みを帯びたお面は婆さんなまはげ」なんですよ。
男鹿のなまはげ どんな行事なの?
冒頭では「男鹿のなまはげ」に対する自らのイメージだけを綴ってしまったが、実際はどんな行事かをここで触れておこう。
なまはげは「男鹿(おが)のナマハゲ」として、国の重要無形民俗文化財に指定され、大晦日に秋田県の男鹿市(現在は約80集落)と三種町、潟上市の一部の各地域で行われる伝統的な民俗行事である。(本来は小正月の行事であった。)
「なまはげ」は怠惰や不和などの悪事をいさめ、災いを祓い新年の祝福を与える使者(来訪神の類い)といわれている。年の終わりに、大きな出刃包丁(あるいはナタや棒など)を持ち、鬼の面、ケラミノ、ハバキをまとって、なまはげに扮した若者達が家々を訪れ、「悪い子はいねがー」「泣ぐコはいねがー」と奇声を発しながら練り歩く。そして家に入って怠け者、子供や初嫁を探して暴れる。家人は正装をして丁重にこれを出迎え、主人が今年1年の家族の無事に感謝し、日常の悪事を釈明するなどした後に酒などをふるまって、送り返すとされている。 つまり、この地に住む人々にとって、なまはげは恐怖の象徴ではなく自らの心を戒めてくれる者なのだ。
なまはげの名前の由来とは
それにしても、なまはげが手にしている物が物騒だという人もいるだろう。なんといっても包丁(集落によって棒や鍬のようなもの)なのだから、なんだか人を脅す武器のようだ。しかしながらこれに意味があり、実は「なまはげ」の語源にもなっているらしい。太田さんが詳しく説明してくれた。
【太田さん】
冬に仕事をしないで室内で暖をとっている人、怠け者には、皮膚に赤い火だこ(温熱性紅斑)ができる。その火だこを方言で「なもみ」と呼ぶんです。その怠け者の象徴の「なもみ」をはぎとる道具としてなまはげは包丁や鍬、棒などをもっているんですよ。「なもみを剥ぐ」「なもみはぎ」が転じて「なまはげ」になったんです。だからなまはげは、1年間の怠け心と悪いものを剥ぎ取るということ、悪いものを払ってくれる。そして新しい年は火だこ(なもみ)ができるような生活はするな、と諫めてくれる「ありがたい存在」なんです。
またひと昔前、この地域では冬の間は出稼ぎにいかれる人が多くいました。そこで災いをはらってくれるなまはげの衣装から抜け落ちた藁をお守りとして身につけ、出稼ぎにいかれてたそうです。そして現在でも語り継がれ、なまはげから抜け落ちた藁は、魔除けになったり健康になったり縁起がいいものであると言われています。
太田さんの話を聞きながら、「なまはげ」という行事について考えてみた。
まずは長い間この行事が途切れることがなく、人々によって受け継がれてきたということ。「そこでしか」見ることができない、感じることができないことが旅の醍醐味だと考えると、「そこでしか」という文化を受け継ぐ人たちがいるからこそ、地域に残り、観光資源となっている。
便利になった現代社会。合理性ばかりを追求して、大切なものを失った・失いかねない現状がある。時代が変化しても、昔からの人間としての慣わしだけは忘れないで欲しい。私たちの心を戒めてくれる存在が「なまはげ」ではないだろうか。新しいことを築いていくことは決して悪いことではないが、古くからある文化をどのようにして後世に受け継いでいくのか、私達は今、なまはげに試されているのかもしれない。
文/菅原・二方
Information
ナマハゲを生み、育み、伝承してきた男鹿特有の風土を紹介する神秘のホール。男鹿市内各地で実際に使われていた110体&40枚(計150枚)の多種多様なナマハゲ面が勢ぞろい、圧巻の迫力のなまはげ勢ぞろい。男鹿の大晦日のナマハゲ習俗を紹介する映画「なまはげの一夜」を8:30~16:30までのあいだ、30分おきに上映する、なまはげ伝承ホールもあり、男鹿のなまはげの全てに触れることができます。
なまはげ館
〒010-0685 秋田県男鹿市北浦真山字水喰沢地内
☎0185-22-5050
■定休日/年中無休
■営業時間/8:30~17:00
■入場料/一般450円(税込)