ひと

有限会社佐藤徳太郎商店 佐藤進幸さん

有限会社佐藤徳太郎商店とは?

 有限会社佐藤徳太郎商店は、秋田県潟上市昭和大久保にある佃煮の製造販売を行っている会社である。昭和22年創業の歴史ある会社で、当代の佐藤進幸さんで4代目だ。昔ながらの製法で作った佃煮を、小売販売とネット通販でお客様へ提供している。

 事業を継ぎ、地元で働き続ける理由はなにか?食品製造販売業におけるコロナ禍の影響は?「働く」とは?… 将来に不安を抱える私たちの疑問。今回は、有限会社佐藤徳太郎商店の佐藤進幸さんに取材を行い、これらのことに赤裸々に答えていただいた。

「佃煮づくり」を継いだ理由

 佐藤さんは高校卒業後、家を継ぐ気はなく仙台でデザインの仕事をしていたという。しかし、30代の時に事故に遭った。その時家族に支えてもらった経験が、“家業を継ぐべきだ”という思いに変わったと語る。

ただ、初めは佃煮づくりに対する思い入れはなく、食べていく手段だと考えていたと話す。その考えが変わったきっかけは何だったのか聞くと、2011年に津波で福島の工場が流されたことだったと答えられた。

 「経営の立て直しで自身の姿勢を見直す必要があると先輩経営者に指摘された。そこから、食べるために仕事をするだけではだめだと思った。社員さんの人生、お客様や漁師さんのことを考えたらいい加減にできないという気持ちになった。」と佐藤さんは言う。

素材選び —地域との関わり

 ホームページを拝見すると、素材へのこだわりが強く感じられた。その点についてお話を聞くことで、我々は佐藤さんの地域貢献への思いを知ることができた。

 佐藤さんは、朝2時に起きて漁港まで自ら足を運び、魚を選んで購入しているという。そうすることで、佃煮づくりにベストな素材を選べることはもちろん、歩留率が高くなりロスが少なくなると話した。また、秋田の経済に少しでも貢献したいという思いから、なるべく地元のもので作ろうと心がけているのだという。

 この回答から、佃煮へのこだわり、お客様に美味しいものを届けたいという思い、自然環境への配慮、地元への思いが感じられる。素材選びという工程一つとっても様々なことが考えられており、仕事は「一人」で「自分のために」ではなく、「みんな」で「誰かのために」するものなのではないかと考えさせられた。

「職人」後継者は —社員との関わり

 前項で触れた素材選びについてもそうだが、佃煮づくりは職人さんの勘や経験を駆使する場面が多い。これらの技術をあらかじめ持って入社する人材はいるのだろうか。

 答えは、現段階では「NO」だ。今は若手に教えている段階だという。というのも、佃煮に使用する醤油は自家製で、その作り方はマニュアルで覚えられるものではないのだ。醤油屋の方だったお母様こだわりの醤油にはファンが多く、匂いや手触りなどの感覚でその味を覚えていくしかないのだという。

 この難しい作業を、若手にはマンツーマンで少しずつ教えているそうだ。失敗もあるが、決して怒ることはしない。佐藤さんは自分の若い頃の気持ちを忘れず、「たとえ失敗して20、30万円の損失が出たとしても、それは投資というつもりで考える」と笑って話した。また、普段から社員さん同士のコミュニケーションを推奨し、仕事面においても言いづらいことがないような環境作りを心がけているという。

 そんな佐藤さんは、社員さんの成長を見られたときにやりがいを感じるそうだ。「社員が立派に成長したところを見ると嬉しい」と笑顔で話す姿に、仲間を大切に思う気持ちが感じられた。また、この関係性や職場環境を築く社長の、佃煮づくりを受け継いでいきたいという“意志”が見えた。

コロナ禍における会社への影響

 我々の生活に大きな影響を与えた新型コロナウイルス。食品製造販売業ではどのような影響を受けたのか伺った。

 佐藤徳太郎商店では全体的な売り上げは減ってしまったが、ネット通販での売り上げは伸びたという。このコロナ禍で様々な販売の仕方を行っていて良かったと話し、時代に合わせた販売形態の重要性を感じているようだった。

 ネット通販に力を入れるようになったきっかけも2011年東日本大震災からの経営の立て直しであり、秋田の食を全国の人に食べてもらいたいという思いがあったそうだ。運営は10代、20代の若い人たちに任せており、それぞれが得意分野で活躍していると感じた。今回のコロナ禍も含め、辛いことを教訓にして逆境に立ち向かう姿が印象的だった。

地域で働く魅力

 佐藤さんは、なぜ「潟上」という地で働き続けるのか。そこにどんな魅力を感じているのだろう。一度都会に出て働いた経験のある方だからこその答えをお聞きすることができた。

 都会は、時間の流れが速く動きが機敏で会話も必要最低限だという。それに比べて地方は良い意味で時間の流れがゆっくりで、お客様のために多くの時間を割くことができると仰っていた。確かに、都会でのスピード感の方が効率的に仕事がこなせるかもしれないが、一人ひとりの消費者に対して丁寧な対応はできないだろう。会話はお客様満足に繋がったり人生を豊かにしたりする。それが実感できるのが地域で働く魅力ということなのだろう。

 佐藤さんには、「八郎潟を復活させたい」という目標がある。かつてシジミが大量繁殖したことを受け、また綺麗にできたら日本一シジミが採れる場所になるかもしれないと目を輝かせて語った。これが実現できれば、若い人も暮らしていけたり、週休三日になったり、地元に残りたい人が出てきたりするかもしれない、と。

 「どの地域にも魅力があり、その掘り起しが必要だ。馬鹿にならないと切り開いていけない困難さもある。」と強く語る。「そのためには、悪いところだけでなく良いところも見ていくことが必要だ。」と続けた。

 人口減少、少子高齢化、過疎化、、、現代社会においてよく目にするのはこのようなマイナスな点ばかりだが、それに囚われず、「良いところ」に目を向けなければ気が付かないこともある。佐藤さんのように視点を変え、その地域唯一無二のものを探していく必要があるのかもしれない。

「働く」とは?

  佐藤さんは、会社で働く70歳の社員さんに、「うちで働くことでお金以外に得たことはある?」と問いかけたことがある。するとその社員さんは、「楽しさをもらった」と答えたという。

 それから、お金ではない何かを提供したいという気持ちになり、今では「お金は必要だが、労働を“苦役”とはしない、身を削るようなことはしない」という考えをお持ちだ。

 また、佐藤さんは佃煮づくりを続ける理由として「夢と志があるから」と教えて下さった。夢は、秋田県を働く人たちが生き生きと仕事できる環境をつくること。志は、受け継いだものや先代のプライドを守っていくこと。

 この志を持ち、夢に近づくために、現在は佃煮づくりの技法を使って大潟村の農産物を佃煮にすることに挑戦したいと語る。

 周囲の人や地域、先代の思いを大切にしながら誇りを持って働く佐藤さん。常に高い目標を持って行動し続ける姿に感銘を受けた。

最後に

 今回、メインインタビュアーを務めさせていただいた進藤です。佐藤さんへの取材で、お客様のことをよく考え、理解して繋がれるという魅力は地域で働くことでしか気づけないし経験できないと学び、素敵だと思いました。また、どんな場所や人にも良い面は必ずあるため、そこに気付くことや知ろうとする努力が働く上で重要であると学びました。佐藤さんは働く仲間(従業員の方々)を大切にされていて、“会社で働く”とは一人では成り立たないことだと改めて知ることができました。社会に出る上で非常に重要なことを知れたと思います。忘れずに今後に生かしていきたいです。

貴重なお時間を割いてお話をしてくださった佐藤社長に厚く御礼申し上げます。

(文/秋田大学 進藤)

最後に一緒に取材を行った学生の感想を紹介させて頂きます。 

 教育において叱るよりも経験させた方が働きやすい環境づくりにもつながり、社員にとっても愛着を持って働いてもらえるようになると考えます。
 人には得意・不得意があることが当然であり、得意な分野で活躍してもらった方が個人にとっても働きやすい環境で在り、会社全体で見た時にも有益です。人や物のいい面に注目した方が物事がポジティブな方向に働くということを改めて認識することができました。

石川

 秋田県で将来に希望を持って働いている経営者の方のお話が聞けて嬉しかったです。佐藤さんのお話を聞いて、働いていく上でともに働く人たちと良い関係を築いて働いていくということが重要なのだと感じました。また、夢と志があるから佃煮を作る、お仕事を続けると仰っていたことが印象に残りました。私も夢と志を持って生き生きと仕事をして生きていきたいと思いました。

 佐藤さんから、様々なお話を聞くことができてとても面白かったです。佃煮は個人的にあまり身近な存在ではなかったが、佃煮の歴史についてお話を聞いたことで佃煮に関する関心も高まったと感じます。佐藤さんのお話の中で「悪い部分だけに目を向けるのではなく、良い部分にも目を向けてそこから可能性や魅力を見つける」ということが特に印象的でした。仕事だけでなく、生きていくうえで大切な考えであると感じました。悪い部分を気にしてしまいがちだが、良い部分に注目してプラス思考にしていきたいです。

大山

 今回のお話で印象的だったのは、もともと継ぐつもりはなく、継いだ後も少しいい加減な気持ちでやっていたが、あることをきっかけに経営者としての姿勢を見直し、今では社員の成長を感じることがやりがいであるということでした。地方企業でその家族が継ぐというのはよくある話ではあると思うが、どういった経緯で経営者としての気持ちができたのか、という話は初めて聞いたので、また違う視点での考えを得ることができました。

野崎

 

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