第3回目は、秋田県男鹿市にある「グルメストアフクシマ」の福島智哉さんに取材を行った。
創業は大正7年。初めは東京の武蔵小山でお店を経営していた。
長年、肉屋として経営してきたが、福島さんのお父さんの代から惣菜の販売を始めた。「地産地消」「環境負荷が無い(農薬や化学肥料不使用の食材)」「地元で経済を回す」という3点に加え、「美味しいという価値観」を大切にし、お客様に喜んでもらいたいという気持ちで経営しているそうだ。
また、「グルメストアフクシマ」では、なるべく電話で注文を取ることにこだわっている。その理由を聞いてみたところ、注文の見逃しのようなトラブルを防ぐという目的だけでなく、「お客様が本当に望んでいる商品は何かをはっきりさせ、本当に美味しい状態で食べてもらうため」というお客様への想いもあった。だからこそ、会わなくても声が聞ける電話を用いた注文にこだわっている。
新型コロナウイルスの影響
県外から来るお客様は少なくなってしまった。
しかし、外食が難しい状況になったことで、お弁当やオードブルの注文は増えた。注文が増える中、経営の効率を上げるために工夫したこともあり、得るものもあったと言える。
お店を継ぐことについて
祖父母に仕事を継ぐように言われていて、家の仕事を継ぐのは楽だと考えていたものの、反発する気持ちもあった。その中でも、両親は好きなことをやらせてくれて、中学卒業後はアメリカへ留学、高校では山岳部に所属して成績を残し、地元から離れた大学へ進学した。
地元を離れたことで、地元である男鹿の良さや魅力に気付き、「男鹿で普通の暮らしがしたい」と思うようになった。また、飲食店で働いたことで、父がやっていたことを自分もやりたいと感じ、仕事を継いだそうだ。
福島さんがお店を継いだときは、地元の人からの認知度は高かったものの、外の人からの認知度は低かったため、SNSを活用してお店を知ってもらおうと考えた。SNSの他にも、イベントへ積極的に参加したり、メディアに取り上げてもらったりしたことで徐々に手応えを感じていった。
手応えを感じていく中で、売り上げのみを考える状態になってしまっていた。そこで、「誰に、どのように喜んでもらいたいか」を成文化することを行った。自分の想いや価値観がみんなに伝わるようにしたことで、同じ想いを共有する仲間が増えた。現在では、仲間たちと地域を動かすイベントや事業を行うことができるようにもなった。
新たに始めたカフェについて
福島さんは、男鹿にいる他の経営者の方たちと共同で、新たにカフェを始めた。カフェを始めた理由に「人と人の繋がり」や「チャレンジしたい人への機会の提供」、「豊かな社会を作ることができる新しいコミュニティの場にするため」と様々な理由を挙げてくれたが、一番にあるのは「自分たちがビジネスありきではなく、仲間と楽しく暮らしたいという想い」であると話していた。
地元で働く魅力や今後の目標
福島さんは、地元で働くことについて、「都会で暮らすよりも、様々な面で余裕を持った生活ができるだけでなく、自分がやりたいことができる」と話してくれた。時間やお金に追われるのではなく、心に余裕を持ち、自分で動く環境を作っていけるという特徴が、福島さんの考える地元で働く魅力である。
今後の目標について、「今よりも心を豊かにして、関係性を充実させ、自分たちが楽しい在り方を築いていくこと」と「100年後の子どもたちに自分たちが見てきた男鹿の風景を残していくこと」を挙げていた。福島さんは「自分が楽しくあること」を大事にして行動している姿勢は、インタビューの中でもとても印象的だった。
私たちのような若い世代に向けて、「ダサい、田舎くさいと思っていても、それが愛おしくなる瞬間や地元の良さに気づくときがある。地元の人に触れ、上の世代の人と関わることで何かが変わっていく。その良さに早く気づくことが出来る人はラッキーだ」とアドバイスをしてくれた。
地元に対する福島さんの考え方や、働く上で大事にしていることを聞くことができて貴重な経験だった。「自分たちが楽しくいること」という視点は、私たち学生にとって見落としていた点であったため、今回お話を聞いたことで新しい視点に気付くことができて良かった。留学や進学で地元から出て生活し、地元に戻ってきて活躍している福島さんへインタビューを行えたことで、”地元で”働く魅力を改めて感じ取ることができた。
(文/秋田大学 大山)
学生の感想
大山:福島さんは、同じ想いや価値観を持つ人たちと本当に楽しみながら様々な取組を行っていることが話している姿から伝わってきて、「働く」ということについて改めて考えるきっかけになりました。実習を行う前は「生活のために働く」という部分しか見えていなかったが、取材で様々な話を聞いていくうちに、「人」や「気持ち」の部分での豊かさという点において地元で働く魅力があること、そこを大事にしていくことなど、多くのことに気づくことができたと感じます。また、福島さんたちをはじめ、学生など多くの人が協力して地域を動かしていこうとしているのはとても素晴らしいことだと感じました。自分たちの楽しさを重視している姿勢はとても興味深いと感じました。福島さんのお話を聞いて、地元で働く魅力について感じ取ることができました。
石川:福島さんへ取材する中で自分が楽しむこと、ゆとりを持つことを大切にしていることがよく伝わってきました。実際に福島さんは楽しむことを重視して活動することで男鹿への移住者の増加に貢献されています。働くにあたっても楽しみながら、心にゆとりをもって生活することで豊かな人生、豊かな人間関係の構築に結びつけることができると考えました。
泉:福島さんへのインタビューを終えてわたしは少子高齢化が進む秋田県でも夢や目標を持って明るく仕事に向き合う人がいて嬉しいという気持ちを強く抱きました。コロナ禍で多くの産業が不況に陥る中でも福島さんは前を向き今後の展望について明るく語る姿が印象的でした。特に私は福島さんの地域の悪いところだけでなく良いところをしっかり見るというお話が印象に残りました。人口が減少している秋田県ではありますがその他に目を向けるとさまざま魅力があるのだと考えせられました。私も福島さんのように夢や志を持って生きたいと強く思えました。
進藤:今回の取材では特に、”自分たちが楽しくいること”の大切さに気づかされました。福島さんが活動に関して楽しそうに話している姿を見て、素敵だと感じました。就職活動で見逃しがちな点ですが、身の回りの環境だけでなく心の環境にも目を向けるべきだと思いました。また、地元の良さに気付くには時間がかかりますが、私たちはこうして取材の中でどんどん知ることができています。福島さんのように大きな目標を持って働き、地域に貢献できたらと考えるようになりました。
野﨑:福島さんはビジネスとして経営を行っているのではなく、「自分たちが楽しいと思えることをやりたい」という思いで様々な事業を行っているというところが印象的でした。このような考えに賛同・共感してくれる人がだんだん増え、実際に学生も含む何人かの人たちが男鹿に移住して活動しているそうです。また、福島さんは自分が育ち見てきた男鹿の風景を100年後の子どもたちに残したいそうで、そういった面でもビジネスではなく「自分のやりたいこと、楽しいこと」のために働いていると感じ、素敵な考え方・働き方だと思いました。さらに、私は「地元の農家さんとどのようにして関係性を築いているのか」という質問をしました。福島さんは、自分から現地に赴いてとにかくたくさん話し、お互いが納得のいく結論になるよう「あきらめないで対話する」ことが大事であると仰っていました。これは農家の人に限らず、いろんな人との関係性を作るために必要なことであり、私たちが社会人として働き始めてからもかなり重要になってくるスキルであると感じました。