都わすれ・妙乃湯・グローカルプロモーションとは?
都わすれとは秋田県仙北市の抱返り渓谷県立自然公園内にある温泉施設で、その歴史は江戸時代からとされている。
妙乃湯は同じく秋田県仙北市の乳頭温泉郷内にある温泉施設で、その歴史は昭和27年からとされている。現在の女将は2代目となる。
グローカルプロモーションとは地方から世界へ情報を発信する企業である。
旅館経営への思い
佐藤さんは夏瀬温泉や妙乃湯を利用するお客様が一生忘れることのできない思い出を刻んでほしいという思いで旅館を経営されている。一般的に旅館とは旅行で一時的に訪れる場所だと思われる。しかし、佐藤さんはお客様と旅館との間に「おかえり」「ただいま」の関係性が築かれることを理想としている。旅館がお客様にとって行く場所ではなく、帰る場所と思って頂けるよう努めているのだ。
先の関係性を実現するために上質なサービスの提供を心がけているという。
コロナ禍の会社への影響
コロナ禍で旅館利用者のインバウンドはほぼ消滅してしまった。しかし、全国的に県内観光が推進されたこともあり、県内客が大幅に増加した。結果として毎月利用してくれるお客様ができるなど、身近な魅力を再確認する機会となった。
コロナ禍で佐藤さんは量よりも質や価値を重視するようになったという。これは小さい旅館ならではの強みになり得るのではないだろうか。お客様に一生忘れることのできない思い出を刻んでいただくためには欠かせない姿勢だと思われる。
そうした姿勢のもとお客様の対応をするにあたって、コロナ禍で欠かせないとされるマスクがコミュニケーションを難しくさせている。マスク越しでは声が届きにくかったり、表情が暗く見えてしまったりと、普段は満足にできていたはずの対応ですら大変なものとなってしまっている。
コロナ禍で乳頭温泉郷では新しい事業が開始された。
ひとつ目は乳頭温泉郷を舞台としたフォトウエディングである。秋田県の企業であるIYATAKAと共同で行っている。これは乳頭温泉への宿泊を目的としたものではない。
ふたつ目はホームページの開設である。日本には四季があるとされているが、秋田には十二季があるとし、12 SEASONSというホームページが開設された。情報を発信したり、イベントを開催したりしている。2021年10月下旬には乳頭温泉郷内で電動自転車体験や熱気球体験などが行われた。
やりがいの見つけ方
「やりがいとは何か、やりがいの見つけ方は何か」という質問をさせていただいた際、佐藤さんは取材に参加していたゼミ生に「人生は自分だけのためで楽しいのか」と問いかけた。ゼミ生の答えは「自分のためだけの人生は楽しくない」という意見に一致していた。
仕事はお金を得て生活していくためと思われることが多い。しかし、佐藤さんは仕事というのは仕事を通して誰かが楽しい、満足している様子や状態が楽しいものであって、それがやりがいとなっていくという。
地域で働く魅力
佐藤さんにとって地域で働くことの魅力は土地というよりも人であるとお話していた。地方では都会よりも濃い人間関係を構築することができるように感じるという。佐藤さんにとって秋田は祖父母の家があり、里帰りの場所であったというイメージを強く持っており、子供の頃の夏休みなどの楽しい思い出がたくさんある。現在では秋田が好きという思いもあるが、それ以上に秋田で働き、生活していく中で集まってきた仲間が好きという思いが強いという。
今後の目標
現在はコロナ禍でほぼ消滅という状況になってしまったインバウンドを復活させ、「おかえり」「ただいま」の関係性を拡大していきたいという。
地に足を付け、今回のコロナ禍の様に世界的に予期できないようなことがあっても踏ん張れる会社を目指しているそうだ。これは社員とその家族までも守りたいという佐藤さんの強い社員愛があふれる考えである。
最後に
今回、メインインタビューアーを務めさせていただきました石川です。
やりがいの見つけ方のお話をお伺いした際にそれまでなんとなく感じていたことを言語化された感覚を持ちました。「やりがいを感じるのはどういった時か」という問いかけをされた際、ゼミ生の回答は共通して感謝された時、結果が返ってきたときなど他者からの評価や他者の存在があって得られるものでした。これは就職活動をする中で活かせることだと思われます。やりたいことを仕事とするのももちろん良いことですが、どういう風に社会や人の役に立ちたいか、どうしたらやりがいを感じられるかということを軸において就職活動をするのもよいのではないかと感じました。
貴重なお時間を割いてお話をしてくださいました佐藤さんには厚く御礼申し上げます。
(文/秋田大学 石川)
ここで一緒に取材をさせていただいたゼミ生の感想をご紹介させていただきます。
今回佐藤社長のお話を聞いて私は「場所よりも人」という言葉が印象に残りました。佐藤社長は秋田の人ではないのですがそれでも秋田で働く理由として秋田にいる仲間が好きだということを挙げてらっしゃいました。そしてそうした好きな仲間のいる環境で佐藤社長はお客様に喜んでもらいたいという気持ちを持ってお仕事に臨まれているということがよく分かりました。今回、お話を聞いて自分だけのために働くのではなく一緒に働く仲間と何かを達成したり喜んでもらいたい誰かのために働くということが自分の仕事に納得して働く上で非常に重要になってくるのではないかと考えさせられました。今回聞かせて頂いた貴重なお話を忘れず今後に生かしていきたいと思います。
泉
佐藤さん自身の地域で働く魅力について聞くことができてよかったです。「場所」よりも「そこにいる人々」に魅力を感じて働いているということを感じました。また、佐藤さんは、「思い出」や「質」にこだわって旅館を経営していると感じました。そこにこだわって経営しているところでは特別な時間を過ごして、より良い時間を過ごすことができそうだと感じました。
初回の実習では「なんのために働くか?」という問いに対して「誰かの幸せや笑顔のため」という考えをゼミ生の間で出していました。今回、佐藤]さんのお話でも同じようなお話を聞いたことで、「誰かのために」働くという考えはやはり合っていたのだと感じました。
大山
コロナ禍で打撃を受けたと考えられる宿泊業ですが、マイナスな影響ばかりでなく、考えを改められたり、新しい視点を持てたりとプラスの影響があったことを知れてよかったです。お客様のことはもちろん、社員さんのことも大切に考えた経営スタイルに魅力を感じ、会社の個性に繋がっていると感じました。「人生を自分のためだけに生きるのは楽しいのか」という佐藤さんの言葉が印象的でした。ゼミの最初に考えた“人のために働く”ということに説得力が加わりました。
進藤
今回は今までとは違い旅館の経営ということで、商品を売るのではなくサービスを提供している方へのインタビューだったので、新鮮なお話を聞くことができました。コロナ禍前は稼働率が9割でなかなか部屋数を減らすのには勇気が必要でしたが、部屋数を減らしても単価を上げることで売り上げにほとんど影響が出ないということに気付けたそうで、コロナ禍で気付けることがあるというのはとても印象的でした。また、お客様とは「おかえりなさい、ただいまの関係」を築き、行く場所ではなく「帰る場所」になるようにという考え方が素敵だと感じました。
野崎